タイの不法就労の実態:日系企業が知るべきリスク

タイは、アジアの主要な投資先の一つとして多くの日本企業が進出しています。製造業からサービス業まで幅広い分野でタイ人スタッフを雇用していますが、その中で見過ごされがちなのが「不法就労」の問題です。不法就労は、企業にとって多大なリスクを伴い、事業継続に深刻な影響を与える可能性があります。

本稿では、タイにおける不法就労の実態に触れ、なぜこの問題が起こるのか、そして日本企業がどのようにこの問題に対応すべきかについて、具体的な対策を交えながら解説します。

1. タイにおける不法就労の実態と背景

タイにおける不法就労とは、主に以下のケースを指します。

  • 適切な労働許可(ワークパーミット)を持たない外国人による就労:
    • 観光ビザ、ノービザで入国し、労働許可を持たずに就労しているケース。
    • 労働許可の期限が切れているにもかかわらず、更新せずに就労を続けているケース。
    • 労働許可で認められた職種・業務内容以外に従事しているケース(職種偽装)。
    • 労働許可で認められた雇用主以外で就労しているケース(兼業の不法就労)。
  • 不法滞在者(オーバーステイ)による就労:
    • ビザの期限が切れてもタイに滞在し続け、就労しているケース。

なぜ不法就労が起こるのか?

  • 労働力不足とコスト削減志向: 企業側が人手不足を補うため、または労働コストを抑えるために、手軽に雇用できる外国人に頼る。
  • 外国人側の就労意欲: より良い賃金や生活を求めて、不法であることを承知で就労する。
  • ビザ・ワークパーミット申請の煩雑さ: 合法的な手続きの煩雑さや時間の制約から、不法就労に走ってしまう。
  • 仲介業者の不適切な誘導: 不法な仲介業者が、不法就労を斡旋したり、誤った情報を提供したりする。
  • 知識不足と認識の甘さ: 企業側がタイの労働法や入管法に対する知識が不足していたり、不法就労のリスクに対する認識が甘かったりする。

2. 日本企業が不法就労に関与した場合のリスク

日本企業が不法就労者を受け入れた場合、企業側にも使用者責任が問われ、非常に重い罰則が科せられます。

  • 罰金・懲役刑:
    • 不法就労者を雇用した企業(雇用主)は、最長10年の懲役、または最大10万バーツ(約40万円)の罰金、あるいはその両方が科せられる可能性があります(外国人就労法)。
    • 不法就労者個人も、最長5年の懲役または最大5万バーツの罰金、あるいはその両方が科せられます。
  • 事業活動への影響:
    • 当局による強制捜査、従業員の逮捕、事業所の閉鎖命令などにより、事業活動が停止する可能性があります。
    • これにより、生産ラインの停止、納期遅延、顧客からの信頼失墜など、甚大な経済的損失が発生します。
  • 企業イメージの毀損(レピュテーションリスク):
    • 不法就労問題が明るみに出た場合、企業のコンプライアンス体制に対する疑念が生じ、社会的な信用が大きく低下します。
    • 日本の親会社や株主からの評価も下がり、投資家からの信頼失墜につながる可能性もあります。
  • 駐在員への影響:
    • 不法就労問題に関与した駐在員は、個人として逮捕・訴追されるリスクがあります。
    • 企業からの懲戒処分、キャリアへの悪影響は避けられないでしょう。
  • サプライチェーンへの波及:
    • 自社だけでなく、サプライチェーン上の協力会社が不法就労を行っている場合、自社も間接的に責任を問われたり、企業の社会的責任(CSR)の観点から問題視されたりする可能性があります。

3. 日本企業が不法就労問題に対応すべき具体的な対策

不法就労リスクをゼロにすることは困難ですが、以下の対策を講じることで、リスクを大幅に低減し、万が一の事態に備えることができます。

  1. 採用時の身元・ビザ・ワークパーミットの徹底確認:
    • 必ず原本を確認し、コピーを保管する。 パスポート、ビザ、労働許可証の有効期限、種類、氏名、顔写真などが一致しているか、細部まで тщательно に確認する。
    • ビザの種類が「観光ビザ(TR)」や「ノービザ」の外国人(タイ人以外)は、原則として就労できません。安易な雇用は避けるべきです。
    • タイ人の場合でも、IDカードの有効性を確認し、成りすましなどの不正がないか注意を払う。
  2. 人事担当者の教育と法務部門との連携:
    • 人事担当者に対し、タイの労働法、入管法、特に外国人就労に関する法律に関する専門知識を継続的に教育する。
    • 新しい法改正や制度変更については、法律専門家と連携し、常に最新の情報を把握する。
  3. 定期的な労働許可の有効期限管理と更新手続きの徹底:
    • 外国人従業員の労働許可の有効期限を厳重に管理し、期限切れになる前に必ず更新手続きを行う。
    • 企業として、従業員が合法的に就労を継続できるよう、必要なサポートを提供する。
  4. 業務内容と労働許可の整合性確認:
    • 外国人従業員が、労働許可で認められた職種・業務内容以外に従事していないか、定期的に確認する。
    • もし職種変更などが必要な場合は、適切な手続きを行う。
  5. 外部の専門家との連携:
    • タイの 法律専門家(弁護士、ビザ・ワークパーミットコンサルタント)と強固な連携体制を構築する。 疑問点や不明点が生じた際には、すぐに相談できる体制を整えておく。
    • 特に、ビザやワークパーミットの申請・更新手続きは、信頼できる専門家に依頼することを強く推奨します。
  6. 社内規程の整備と従業員への周知:
    • 不法就労に関する企業の明確な方針を社内規程に明記し、全従業員(特に管理職)に周知徹底する。
    • 不法就労が発覚した場合の企業の対応や罰則についても明確にしておく。
  7. 内部通報制度の活用:
    • 不法就労の疑いがある場合、従業員が匿名で通報できる内部通報制度を整備・運用する。

アジア危機管理リーガルエージェンシーがお手伝いできること

アジア危機管理リーガルエージェンシーでは、タイにおける日系企業の皆様が、不法就労リスクに直面しないための予防策から、万が一問題が発生した場合の解決まで、包括的なサポートを提供しております。

  • 外国人就労に関する法的アドバイス: タイの最新の労働法、入管法に基づいた法的アドバイスを提供し、リスクを特定します。
  • ビザ・ワークパーミット申請支援: 信頼できる法律専門家と連携し、従業員のビザ・ワークパーミットの適正な申請・更新手続きをサポートします。
  • コンプライアンス体制構築支援: 不法就労防止のための社内規程整備、従業員向け研修の企画・実施を支援します。
  • 不法就労が発覚した場合の危機管理: 当局への対応、法的手続き、メディア対応など、迅速かつ適切な危機管理をサポートします。
  • 不正調査: 不法就労に関わる不正行為(仲介業者との癒着など)が疑われる場合の事実調査を実施します。

タイでの企業の健全な事業運営と、従業員の安全確保のために、不法就労リスクへの適切な対応は不可欠です。ご不明な点やご心配な点がございましたら、お気軽にご相談ください。


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