不正の温床を断つ!不正が起きにくい仕組み


海外、特にタイなどの拠点で事業を展開する日本企業にとって、不正リスクへの対策は経営の根幹を揺るがしかねない重要な課題です。不正の発生を未然に防ぐためには、性善説に頼るのではなく、「不正が起きにくい仕組み」を組織全体に組み込むことが不可欠となります。
その核心となるのは、日本本社からの実効的なコントロールを確立し、現地従業員に対して常に「本社や上長が見ている」という明確なメッセージを発信することです。さらに、重要なポジションの従業員であっても「社員は辞める」という前提に立ち、業務の属人化を防ぎ、特定個人への依存を排除した管理システムを構築することが、不正リスクを低減する上で極めて重要となります。
本稿では、不正の起きにくい仕組みづくりのための具体的な施策を解説します。


1.日本本社からのコントロールを強化する仕組み
現地拠点の業務を日本本社が適切にコントロールすることは、不正の抑止力となります。

  • 定期的なレポートと報告体制の義務化: 現地拠点の主要な業務プロセス、財務状況、人事関連、在庫管理などについて、詳細なレポートを定期的に日本本社に提出する仕組みを構築します。報告頻度を高め、透明性を確保します。
  • 本社主導の監査体制の確立: 定期的な内部監査に加え、必要に応じて抜き打ち監査を実施できる体制を日本本社主導で構築します。監査チームには、経理、法務、内部監査の専門家を含めることが望ましいです。
  • ITシステムの本社管理とアクセス権限の厳格化: 基幹業務システムや会計システムなどは日本本社で集中管理し、現地従業員へのアクセス権限は業務に必要な範囲に限定します。アクセスログを継続的に監視し、不審なアクセスを早期に発見できる体制を整えます。
  • 重要な取引や契約における本社承認制度: 一定金額以上の取引や重要な契約については、必ず日本本社の承認を得るプロセスを設けます。複数部門によるチェック体制を導入することで、単独での不正を防止します。
  • ホットライン(内部通報窓口)の設置と周知: 日本本社が直接管理するホットラインを設置し、現地従業員が不正行為に関する情報を匿名で通報できる仕組みを構築します。通報者のプライバシー保護を徹底し、安心して情報提供できる環境を整備します。

  • 2.「本社や上長が見ている」というサインを出す仕組み
    心理的な抑止力を働かせるためには、監視の目を意識させることが重要です。
  • 定期的なリモート会議や出張によるコミュニケーション: 日本本社の幹部や上長が定期的にリモート会議を実施し、現地従業員と直接コミュニケーションを取る機会を設けます。また、定期的な出張を実施し、現地業務の状況を直接把握するとともに、従業員との信頼関係を構築します。
  • 目標設定と評価における本社関与: 現地拠点の業績目標や従業員の評価制度に日本本社が関与することで、「評価者は本社も見ている」という意識を植え付けます。評価基準の透明性を高め、公平性を確保することも重要です。
  • 本社からの報酬 制度や表彰制度の導入: 倫理的な行動や模範的な貢献をした従業員に対し、日本本社から報酬を授与したり、表彰する制度を設けることで、不正行為に対する批判的な企業なメッセージを強化します。
  • コンプライアンス教育の徹底と本社からのメッセージ: 定期的にコンプライアンスに関する研修を実施し、不正行為のリスクや倫理観について教育します。研修時には、日本本社の経営層から直接メッセージを発信し、不正行為は決して許されないという企業姿勢を明確に示します。

  • 3.「社員は辞める」ことを前提とした管理システムの構築
    人材の流動性は避けられないため、特定個人に業務が集中する属人化を防ぐことが重要です。
  • 業務の可視化と標準化: 全ての業務プロセスを文書化し、標準化することで、誰でも同じように業務を遂行できる体制を構築します。業務フロー図や手順書などを整備し、継続的に見直しを行います。
  • 複数担当制とローテーション制度の導入: 重要な業務については、複数担当制を導入し、ひとりの担当者による不正リスクを低減します。また、定期的な担当者のローテーションを実施することで、業務のブラックボックス化を防ぎ、不正の早期発見を促します。
  • 職務権限の明確化と分離: 職務権限を明確に定め、 ひとりの担当者に複数の重要な権限を与えないように職務分離を徹底します。例えば、発注担当者と支払い承認担当者を分離するなど、牽制機能を働かせます。
  • 休暇取得の義務化と引継ぎの徹底: 管理職を含む全ての従業員に対し、年次有給休暇の取得を義務付け、休暇取得時には担当業務の引継ぎを徹底します。これにより、 ひとりの担当者しか業務内容を把握していないという状況を防ぎます。
  • 退職時の徹底的なチェックと法的手続き: 従業員が退職する際には、担当業務の引継ぎ状況、アクセス権限の削除、貸与品の返却などを入念にチェックする手続きを確立します。必要に応じて、退職者への聞き取り調査を実施し、不正行為の兆候がないか確認します。

  • まとめ:強固な仕組みと組織的な意識改革で不正リスクを低減
    不正の起きにくい仕組みづくりは、ひとりの対策だけで実現できるものではありません。日本本社からの強力なコントロール、継続的な監視の意識付け、そして属人化を排除した業務プロセスの構築という多層なアプローチが不可欠です。
    さらに、トップダウンによる組織的な倫理観の醸成と、不正行為を許さない組織的な文化を根付かせることが、不正リスクを根本的に低減する上で最も重要な要素となります。

  • アジア危機管理リーガルエージェンシーでは、海外拠点における不正リスク対策のコンサルティング、内部監査体制の構築支援、コンプライアンス研修の実施など、お客様の事業規模やリスク特性に応じた総合的なソリューションを提供しております。不正リスクにお悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。

  • 【お問い合わせ】
    アジア危機管理リーガルエージェンシー
    https://arms-agency.com/contact/

投稿者プロフィール

arms-agency
arms-agency