タイでの労務トラブルを防ぐ!翻訳の落とし穴と就業規則・契約書の重要項目

タイに進出する日本企業にとって、現地社員との労務トラブルは避けて通れない課題の一つです。タイでは労働者保護の意識が強く、日本とは異なる労働法制度が存在するため、日本本社と同じ感覚で労務管理を行うと思わぬトラブルに発展する可能性があります。
特に、労働条件や解雇に関するトラブルは頻繁に発生しており、その背景には、日本本社とタイ現地法人との間で、労働法や文化、慣習に対する理解のずれがあることが少なくありません。こうしたずれを解消し、労務トラブルを未然に防ぐために最も重要なことの一つが、日本本社とタイで相互に正しく翻訳された就業規則や雇用契約書を準備することです。
本稿では、タイの労働法を踏まえ、就業規則や雇用契約書において特に注意すべき重要な項目を解説するとともに、翻訳の失敗事例とその対応策をご紹介します。

◯就業規則・雇用契約書で特に注意すべき重要項目(タイ法に基づき)
日本本社で利用している規程をタイ語に翻訳する際には、以下の項目について特に注意が必要です。

  • 労働時間と休憩:
  • タイの労働法では、1日の労働時間、週の労働時間、休憩時間、残業に関する規定が細かく定められています。日本の規程をそのまま翻訳するのではなく、タイの労働法に準拠した内容にする必要があります。
  • 残業手当の計算方法や、休日労働に関する規定も日本とは異なるため、注意が必要です。
  • 休日と休暇:
  • タイの祝祭日、年次有給休暇、病気休暇、慶弔休暇などに関する規定は、日本のものと異なる場合があります。タイの労働法に基づいた日数や取得条件を明記する必要があります。
  • 特に、試用期間中の有給休暇の扱いや、有給休暇の繰り越しに関する規定は、明確にしておくことが重要です。
  • 賃金と手当:
  • タイの最低賃金、賃金の支払い時期や方法、各種手当(通勤手当、住宅手当など)に関する規定を明確にする必要があります。
  • 賞与や昇給に関する規定も、タイの労働慣行を踏まえた内容とするのが望ましいでしょう。
  • 懲戒と解雇:
  • タイの労働法では、解雇事由や解雇の手続き、解雇予告手当、退職金に関する規定が非常に重要です。不当解雇とみなされると、企業は多額の補償を支払う義務が生じる可能性があります。
  • 就業規則に懲戒事由を明確に記載するだけでなく、解雇の手続きについてもタイの労働法に沿った内容とする必要があります。
  • 試用期間:
  • タイの労働法における試用期間の長さや、試用期間中の解雇に関する規定を明確にする必要があります。
  • 試用期間終了後の本採用の条件なども定めておくと良いでしょう。
  • 福利厚生:
  • タイで義務付けられている社会保険や労災保険に関する規定を明記するほか、企業独自の福利厚生制度があれば、その内容や適用条件を明確に記載します。
  • 紛争解決:
  • 労務トラブルが発生した場合の解決手続き(社内での協議、外部機関への仲裁申請など)について定めておくことが望ましいです。
    翻訳の失敗事例と対応策
    日本本社で利用している就業規則を安易にタイ語に翻訳した場合、以下のような失敗事例が発生する可能性があります。

  • ◯失敗事例1:残業に関する規定の不備
  • 事例: 日本の「時間外労働」という概念をそのままタイ語に翻訳し、残業手当の計算方法がタイの労働法に合致していなかったため、従業員から残業代未払いとして訴訟を起こされた。
  • 対応策: タイの労働法における残業、休日労働、深夜労働の定義と手当の計算方法を正確に理解し、それに基づいた規定を作成する必要があります。 法律専門家や労務コンサルタントの助言を得ながら翻訳・作成することが重要です。

  • ◯失敗事例2:解雇予告と退職金に関する誤解
  • 事例: 日本の解雇に関する規定をそのまま翻訳し、タイの労働法で義務付けられている解雇予告期間や退職金の計算方法を誤ったまま解雇手続きを行ったため、不当解雇として補償の支払いを命じられた。
  • 対応策: タイの労働法における解雇の手続き、解雇予告期間、退職金の計算方法を正確に把握し、就業規則や雇用契約書に明記する必要があります。解雇を行う際には、必ず法律専門家に相談し、手続きに不備がないか確認することが重要です。

  • ◯失敗事例3:有給休暇に関する認識のずれ
  • 事例: 日本の年次有給休暇の制度をそのままタイに導入しようとしたが、タイの労働法では勤続年数に応じた最低有給休暇日数が定められており、その規定を下回る内容となっていたため、労働組合から改善を求められた。
  • 対応策: タイの労働法における有給休暇の付与条件や日数を確認し、それを下回らない内容で就業規則を定める必要があります。従業員の意見も聞きながら、より良い休暇制度を検討することも有効です。

  • ◯失敗事例4:曖昧な懲戒事由の記載
  • 事例: 就業規則に「会社の秩序を乱す行為があった場合」といった曖昧な懲戒事由を記載していたため、従業員の行為がこれに該当するかどうかの判断が難しく、懲戒処分が無効となるケースが発生した。
  • 対応策: タイの労働法を踏まえつつ、懲戒事由を具体的に列挙し、どのような行為が懲戒の対象となるのかを明確にする必要があります。
    まとめ:正確な翻訳と法律知識が労務トラブル回避の鍵
    タイにおける労務トラブルを未然に防ぐためには、日本本社とタイ現地法人との間で、労働法や文化、慣習に対する正確な理解が不可欠です。特に、就業規則や雇用契約書の翻訳においては、安易な直訳は避け、タイの労働法に精通した 法律専門家や翻訳者の協力を得るべきです。

  • ◯アジア危機管理リーガルサービスでは、タイの労働法に精通した法律専門家が、お客様の就業規則や雇用契約書の翻訳・作成をサポートし、労務トラブルのリスクを最小限に抑えるお手伝いをいたします。タイでの労務管理にお困りの際は、ぜひ一度ご相談ください。
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