社内不倫は懲戒の対象?企業の取るべきスタンス


企業内で起こる不倫、いわゆる「社内不倫」は、当事者間の問題に留まらず、職場の秩序を乱したり、業務に支障をきたしたりする可能性があります。しかし、社内不倫を懲戒の対象とすることは、プライベートな領域への過度な介入として議論の余地もあります。
本稿では、日本の就業規則とタイの就業規則における社内不倫の扱いについて事例を交えながら解説し、企業が社内不倫に対してどのようなスタンスを取ることが理想的なのかを考察します。


日本の就業規則と社内不倫


日本の就業規則においては、一般的に、従業員の私生活上の行為そのものを直接的に懲戒の対象とする規定は少ない傾向にあります。しかし、以下のケースにおいては、社内不倫が懲戒処分の対象となる可能性があります。
懲戒対象となる可能性のある事例:

  • 職務専念義務違反: 勤務時間中に不倫行為を行っていた、または不倫に関わる連絡や待ち合わせなどを行っていた場合。
  • 職場秩序の混乱: 社内で公然と不倫関係を続け、周囲の従業員に不快感を与えたり、業務の円滑な遂行を妨げたりする場合。
  • 会社の信用失墜: 不倫が週刊誌等で報道され、会社のイメージを大きく損なう場合。特に、管理職や社会的影響力の大きい従業員の場合には、その可能性が高まります。
  • ハラスメントに該当する場合: 一方的な関係の強要や、別れ話のもつれから相手に精神的な苦痛を与えるなど、ハラスメントに該当する行為があった場合。

  • ◯日本の裁判例の傾向:
    日本の裁判例では、原則として従業員の私生活上の行為は懲戒の対象とならないとしつつも、その行為が企業の秩序を著しく害する場合や、企業の社会的評価を大きく低下させる場合には、懲戒処分が認められることがあります。社内不倫の場合、その態様や周囲に与える影響度合いによって判断が分かれる傾向にあります。
  • ◯タイの就業規則と社内不倫
    タイの労働法には、日本の就業規則のように詳細な懲戒事由に関する規定はありません。しかし、雇用主は合理的な理由があれば従業員を解雇したり、懲戒処分を下したりすることができます。社内不倫が懲戒の対象となるかどうかは、個々の企業の就業規則や、具体的な状況によって判断されることになります。

  • 懲戒対象となる可能性のある事例:
  • 就業規則に明記されている場合: 企業の就業規則に、社内不倫を懲戒事由として明確に規定している場合。
  • 職場秩序への悪影響: 日本と同様に、社内で公然と不倫行為を行い、他の従業員に不快感を与えたり、業務の妨げになったりする場合。
  • 会社の信用毀損: 不倫が公になり、会社の評判を大きく損なう場合。
  • タイの社会規範に著しく反する場合: タイは日本と比較して、倫理観や社会規範に対する意識が異なる場合があります。不倫がタイの社会通念上、許容されない行為とみなされる場合には、懲戒の対象となる可能性も考えられます。
    タイにおける注意点:
    タイでは、解雇予告手当や退職金に関する規定が日本と異なるため、懲戒解雇を行う場合には、法的なリスクを十分に考慮する必要があります。不当解雇と判断された場合、企業は従業員に対して補償 を支払う義務が生じる可能性があります。
    ◯企業が取るべき理想のスタンス
    社内不倫は、原則として個人のプライベートな問題ではありますが、放置すれば企業秩序を乱すリスクも孕んでいます。企業が社内不倫に対して取るべき理想のスタンスとしては、以下の点が挙げられます。
  • 原則として私生活への介入は避ける: 不倫そのものを懲戒の対象とするのではなく、それが業務に与える影響や職場環境への悪影響に着目するべきです。
  • 明確なルールと周知: 就業規則において、職務専念義務違反や職場秩序混乱といった観点から、懲戒の対象となる行為を具体的に明記し、全従業員に周知徹底することが重要です。社内不倫が、これらの規定に該当する場合には懲戒の対象となる可能性があることを明確にしておくべきでしょう。
  • ハラスメント対策の徹底: 不倫関係において、一方的な強要や精神的な苦痛を与える行為があった場合は、ハラスメントとして厳正に対処する必要があります。ハラスメント防止に関する研修や相談窓口の設置は不可欠です。
  • 公平な対応: 社内不倫が発覚した場合、当事者の立場や社内での役割に関わらず、公平な視点で事実関係を確認し、処分を検討する必要があります。感情的な判断や差別的な扱いは避けるべきです。
  • 対話と教育による意識向上: 懲戒処分を行うだけでなく、従業員に対し、企業倫理やプロフェッショナルとしての意識、良好な職場環境の維持について啓発活動を行うことが重要です。
  • 海外拠点における現地の法律専門家との連携: タイをはじめとする海外拠点においては、現地の労働法や社会規範を十分に理解した上で、就業規則を整備し、問題発生時には法律専門家と連携して対応する必要があります。

  • アジア危機管理リーガルサービスができること
    弊社、アジア危機管理リーガルサービスでは、日本とタイの労働法に精通した専門家が、企業の就業規則の整備、労務問題に関する法律相談、問題発生時の対応策のご提案を行っております。
    社内不倫をはじめとする従業員の労務問題でお悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。貴社の状況を詳細にヒアリングし、適切なアドバイスをご提供いたします。

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