日本人駐在員がタイ人従業員に暴力!日系企業が負う「責任」と対策
タイに事業展開する日系企業の皆様にとって、従業員の安全確保と健全な職場環境の維持は最重要課題です。しかし、時に予期せぬトラブル、特に日本人駐在員によるタイ人従業員への「暴力行為」が発生するリスクも潜んでいます。
もし、貴社の日本人駐在員がタイ人従業員に対し暴力を振るってしまった場合、日本企業はどのような「責任」を負うのでしょうか?そして、その際、企業としてどのような「対応策」を講じるべきでしょうか?
本稿では、アジア危機管理リーガルエージェンシーが、実際にあった事例を交えながら、日本人駐在員による暴力行為が日系企業にもたらすリスクと、その際の適切な対応策について詳しく解説します。これは、単なる「個人の問題」では決して済まされない、企業の存続をも揺るがしかねない重大な危機管理テーマです。
日本人駐在員による暴力行為が日系企業にもたらす重大なリスク
日本人駐在員によるタイ人従業員への暴力行為は、企業にとって計り知れないリスクを伴います。
◯法的リスク(タイ労働法・刑法):
民事訴訟: 被害を受けたタイ人従業員は、加害者である日本人駐在員だけでなく、雇用主である日系企業に対しても損害賠償を請求する民事訴訟を提起できます。精神的苦痛、医療費、逸失利益などが請求の対象となります。
刑事告訴: 暴力行為はタイの刑法における暴行罪や傷害罪に該当し、被害者が警察に刑事告訴する可能性があります。刑事事件化すれば、加害者である日本人駐在員は逮捕・拘束され、裁判を受けることになります。企業も、適切な対応を怠ったとして責任を問われる可能性(監督責任など)があります。
労働局への申告: タイの労働保護法に基づき、被害者は労働局へ申告し、企業に対する調査や改善命令が下される可能性があります。
◯レピュテーションリスク(企業イメージの毀損):
SNSやメディアを通じて情報が拡散されれば、企業のブランドイメージは著しく毀損されます。日系企業全体への不信感にも繋がりかねません。
顧客、取引先、そして将来の採用候補者からの信頼を失い、事業活動に深刻な影響を及ぼします。
◯労務リスク:
職場環境の悪化: 他のタイ人従業員の士気低下、企業への不信感、離職率の増加に繋がります。
ハラスメント問題の拡大: 暴力を放置することは、他のハラスメント行為(パワハラ、セクハラなど)を誘発する温床となり、職場全体の健全性が失われます。
日本人駐在員の送還・交代: 加害者である日本人駐在員は、事件の状況や企業の判断により、日本へ送還されたり、役職を解かれたりする可能性があります。
国際関係リスク: 駐在員による問題は、場合によってはタイと日本の二国間関係にも影響を及ぼす可能性もゼロではありません。
実際の事例に見る危機と対応の重要性
【事例:怒声と暴力が招いた会社存続の危機】
タイに長年駐在している日本人管理職A氏(50代)が、納期遅延に苛立ち、タイ人部下B氏(20代)に対し、激しい怒声と共に書類を投げつけ、さらに胸ぐらを掴んで押し倒すという暴行事件を起こしました。
初動の遅れと拡大: 会社は当初、「A氏の個人的な問題」として内々に処理しようとしました。しかし、B氏が負った軽度の怪我の診断書を手に、家族や友人の助言を得て、労働局への申告と警察への刑事告訴に踏み切りました。
SNSでの拡散: 事件はすぐにタイ人従業員の間でSNSを通じて拡散され、「日系企業はタイ人を差別している」「駐在員のパワハラがひどい」といった批判の声が殺到しました。現地メディアにも取り上げられ、企業のイメージは一気に悪化しました。
企業が負った代償: 労働局からは改善命令、刑事告訴によりA氏は逮捕・勾留され、長期の裁判となりました。会社はイメージ回復のため、緊急の広報対応、社内調査委員会の設置、被害者への高額な賠償金支払いを余儀なくされました。さらに、他のタイ人従業員の離職が相次ぎ、新規採用も困難に。結果的に、事業継続が危ぶまれるほどの甚大な損害を被ることになりました。
この事例が示すのは、日本人駐在員による暴力行為が、一社員の問題に留まらず、企業の存続そのものに直結する危機であるということです。
日本企業が取るべき適切な対応策と予防策
このような事態を未然に防ぎ、あるいは万が一発生してしまった場合に被害を最小限に抑えるためには、以下の対応策が不可欠です。
A. 予防策(平時からの取り組み):
就業規則・ハラスメント規定の整備と周知徹底:
タイの労働法に準拠した就業規則に、暴力行為を含むハラスメントに関する明確な禁止規定と懲戒規定を盛り込みます。
全ての従業員(日本人駐在員を含む)に対し、タイ語で内容を徹底的に周知し、理解を促します。
特に、「身体的接触は一切認めない」という原則を明確に伝えることが重要です。
ハラスメント研修の実施:
日本人駐在員向けに、タイの文化や労務慣行、ハラスメントの定義、そして国際的な視点でのハラスメント防止に関する研修を定期的に実施します。
「指導」と「ハラスメント・暴力」の境界線を明確に認識させることが重要です。
相談窓口の設置と運用:
従業員が安心してハラスメントや暴力行為について相談できる窓口(内部、または外部の専門機関)を設置し、その存在を周知します。
相談者のプライバシー保護を徹底し、報復措置がなされない仕組みを構築します。
駐在員のメンタルヘルスケア:
駐在員のストレスや精神的な負担が増大すると、感情のコントロールが難しくなることがあります。定期的なメンタルヘルスチェックやカウンセリングの機会を提供し、問題の早期発見・早期対応に努めます。
B. 緊急時の対応策(事案発生時の初動):
即時対応と隔離:
暴力行為が発生した場合は、直ちに行為を停止させ、加害者と被害者を物理的に隔離します。
被害者の安全確保と健康状態の確認を最優先します。必要であれば医療機関への搬送を手配します。
事実確認と証拠保全:
関係者(加害者、被害者、目撃者)から速やかに事情聴取を行います。
防犯カメラ映像、録音、写真、診断書など、客観的な証拠を速やかに保全します。
この段階から、外部の弁護士や危機管理の専門家を巻き込むべきです。
適切な処分と法的対応:
就業規則に基づき、加害者に対して厳正な懲戒処分(解雇を含む)を検討・実施します。
被害者への謝罪と損害賠償に向けた交渉を開始します。
刑事告訴された場合は、速やかに弁護士を選任し、加害者個人の弁護と企業としての説明責任を果たします。
広報・ステークホルダー対応:
情報が外部に漏洩した場合に備え、事前に広報戦略を策定しておきます。
メディア、従業員、顧客、取引先、そして本社への説明責任を果たすための準備を進めます。
まとめ
日本人駐在員がタイ人従業員に暴力を振るうという事態は、企業にとって「あってはならない」危機です。しかし、そのリスクは常に存在します。重要なのは、「万が一」に備え、平時から適切な予防策を講じ、そして事案発生時には迅速かつ法的に正しい初動対応を取ることです。
アジア危機管理リーガルエージェンシーは、タイにおける労務問題、ハラスメント、そして危機管理の専門家として、日系企業の皆様を強力にサポートいたします。問題が深刻化する前に、ぜひ一度ご相談ください。
【お問い合わせ】
アジア危機管理リーガルエージェンシー
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