タイ・シラチャで起こる企業内不正:日本人駐在員とタイ人スタッフ、それぞれの傾向と対策
タイ東部チョンブリー県シラチャは、多くの日系製造業が集積する重要な工業都市です。日本からの駐在員が多く在住し、現地採用のタイ人スタッフと共に日々業務に取り組んでいます。しかし、グローバルなビジネス環境においては、残念ながら企業内不正のリスクが常に存在します。
シラチャに進出している日本企業においても、日本人駐在員による不正、そして現地タイ人スタッフによる不正、それぞれ異なる傾向が見られます。本稿では、それぞれの不正の典型的な事例と、企業が講じるべき対策について解説します。
日本人駐在員による企業内不正:傾向と対策
異国の地であるタイで、長期間または初めて駐在する日本人社員が起こす不正には、以下のような傾向が見られます。
傾向:
- 経費不正: 出張費、交際費などの水増し請求や不正流用。現地の物価感覚とのずれを利用したり、本社からのチェックが及びにくいと考える心理が働くことがあります。
- 接待・贈賄関連: 現地の取引先や政府関係者との関係を円滑にするという名目で、過度な接待を行ったり、不適切な金銭や物品を提供したりする。日本の商習慣や倫理観とのずれが生じやすい領域です。
- 会社資産の私的流用: 会社の車両、備品、福利厚生施設などを私的に利用する。タイでの生活に慣れるにつれて、公私混同が生じやすくなることがあります。
- 情報漏洩: 退職後のキャリアを見据え、会社の機密情報や顧客情報を不正に持ち出す。
- 権限の濫用: 現地での裁量権が大きいことを利用し、個人的な利益を図る。
対策:
- 赴任前・赴任後のコンプライアンス研修の徹底: 日本本社とタイ現地の法律、社内規定、倫理規範について、日本語で詳細な研修を実施する。特に、経費規定、接待に関するルール、情報管理の重要性などを強調する。
- 明確な内部規程と承認プロセスの確立: 経費申請、接待交際費の支出、資産管理などに関する内部規程を明確に定め、複数部署による承認プロセスを導入する。規程は日本語とタイ語の両方で作成し、全従業員に周知徹底する。
- 定期的な内部監査と管理強化: 日本本社主導による定期的な内部監査を実施し、会計処理や業務プロセスにおける不正リスクをチェックする。必要に応じて、抜き打ち監査も検討する。
- 内部通報制度(ホットライン)の設置と周知: 日本本社が直接管理する内部通報窓口を設置し、不正行為に関する情報を日本語で匿名で通報できる仕組みを構築する。通報者のプライバシー保護を徹底する。
- 本社からの継続的なコミュニケーション: 日本本社の経営層や管理部門が、定期的にWEB会議や出張などを通じて現地駐在員とコミュニケーションを取り、「本社が見ている」という意識を醸成する。
現地タイ人スタッフによる企業内不正:傾向と対策
現地採用のタイ人スタッフによる不正は、その文化や雇用環境を考慮した対策が必要です。
傾向:
- 小口現金や経費の不正流用: 日常的な業務で扱う小口現金や、比較的少額な経費を不正に流用する。
- 物品の横領・窃盗: 会社の備品、製品、原材料などを持ち出す。
- 在庫管理の不正: 在庫数を改ざんしたり、不良在庫を隠蔽したりする。
- 業者との癒着: 仕入先や委託業者と共謀し、不当な利益を得る(キックバックなど)。
- タイムカードの不正: 実際には勤務していない時間を記録したり、同僚のタイムカードを不正に打刻したりする。
- 情報漏洩: 顧客情報や営業秘密などをライバル企業に漏洩させる。
対策:
- 採用時の 入念な身元調査: 採用時に、可能な範囲で職務経歴や前職でのトラブルなどを調査する。
- 明確な職務分掌と牽制機能の強化: 一人の担当者に重要な業務を集中させず、複数担当者によるチェック体制や職務分掌を明確にする。例えば、発注担当と支払い担当を分けるなど。
- 定期的な棚卸しと資産管理の徹底: 現金、在庫、備品などの定期的な棚卸しを実施し、帳簿との差異を徹底的に確認する。入出庫管理を厳格に行う。
- 内部通報制度(ホットライン)の設置と周知: タイ語で利用可能な内部通報窓口を設置し、タイ人スタッフが安心して不正情報を通報できる環境を整備する。通報者保護を明確にする。
- コンプライアンス研修の実施(タイ語): タイの法律、社内規定、倫理規範について、タイ語で分かりやすく研修を実施する。具体的な事例を交え、不正行為のリスクと結果を理解させる。
- 業務評価制度と報酬制度の見直し: 透明性の高い 業務評価清楚制度を導入し、不正行為を行った従業員には厳正な処分を行うことを明確にする。適切な報酬制度を整備することも、不正の動機を減らす上で重要となる。
- 現地管理職への権限委譲と責任の明確化: 現地の状況をよく理解しているタイ人管理職に適切な権限を委譲し、不正防止に対する責任を明確にする。
アジア危機管理リーガルエージェンシーがお手伝いできること
アジア危機管理リーガルエージェンシーでは、シラチャをはじめとするタイ全土の日系企業様に対し、企業内不正に関する複雑なサポートを提供しております。
- 不正リスクアセスメント: 貴社の事業内容や組織体制を分析し、潜在的な不正リスクを特定、評価します。
- 不正調査: 不正の疑いがある場合、 法的な観点に基づいた慎重な事実調査を実施し、証拠を収集します。
- 不正対策の策定と導入支援: 調査結果に基づき、実効性のある不正防止策、内部規程、内部通報システムの策定と導入を支援します。
- コンプライアンス研修の企画・実施: 日本語およびタイ語によるコンプライアンス研修を、貴社のニーズに合わせてカスタマイズして提供します。
- 法的アドバイスと訴訟支援:不正行為が発覚した場合の法的な対応、告発手続き、損害賠償請求などを法律専門家と連携してサポートします。
シラチャで事業展開されている日本企業の皆様が、安全で健全な職場環境を構築できるよう、全力でサポートさせていただきます。企業内不正に関するお悩みやご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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